動乱の一夜が明けた。既に空は白みきっている。

 伊東甲子太郎配下による襲撃から数時間。火をかけ打ち壊されていた屯所が、次第次第に片付けられてゆく。

 隊士達はみな気忙しく立ち働いている。だが男は、そんな様などまるで目に入らぬように、呆然と、ただ眼前の光景だけを見つめていた。

 患者を介抱しようとする隊医、それを拒む患者、病床に散らばる血、血、血――そして絶望の表情。

「副長殿」

 斉藤一は、眼前で膝をつく男の背に呼びかけた。予期した通り、応えはない。

 この三年間――。

 斉藤は、彼の良き話し相手だった。彼らの置かれていた状況故に、二人の間でしか話せないことも多々あった。ある意味では最も近しい立場で、斉藤は彼の話に耳を傾けていた。

 彼の心情を理解できぬわけではない。けれども、否、だからこそ、捨て置けなかった。

「副長殿」

「こうならないでくれと思っていたのになあ。土方君も、沖田君も」

 それは、返答ではなかった。斉藤の呼びかけなど聞こえぬまま、副長と呼ばれた男――山南敬助の亡霊は、誰にともなく呟いた。

 その視線の先には、血を喀く沖田と、それを見てしまった土方。命に代えて守ろうとした者達の、絶望。

「私の命は、何の意義も生まなかった」

 斉藤は何も応えない。黙したまま、彼らがそれぞれに抱えた絶望を、ただ見つめていた。   inserted by FC2 system