目の前にちらつく文字

目に馴染む

見知ったはずの名前が並んだ。

季節は寒さを連れてくる。

先日までの暑くて仕方ないという日々は、忘れ去られたようだ。

これから目の前に通り過ぎる歴史が書かれている。

見ないようにしても視界に入り込んでしまうそれら

気づけば視界に広がる文字は、他の人には見えないものだと気づき

いつの間にか、それがこれから起こることだとわかり

足掻いても変わることがないとわかるまでには、季節を一回りさせれば十分だった。


「斎藤さん」

新選組を離れて行動するようになって

自分の存在が異質であり、警戒されているのはよくわかっていた。

同門ばかりの中で、異質な存在

どこかで疑われているようで、どこかで距離を置かれているようだった。

「どうした・・・?」

態と無愛想に接した。

歳が近く、苦労の多い時代から共に過ごしていた彼にも

「いや、伊東さんたち遅くなるって言ってたから飯でもどうかなって」

自分とは真逆の人物だと思う。

大人びて振舞おうとしても、幼さの滲み出る笑顔

彼がどこかで羨ましかった。

「支度をしようか。」

視界の端にチラつく彼の名前

自分では変えられない運命ながら、彼の存在が消えることは恐ろしく感じた。

自分が内偵としての役目を終えれば

ぐらぐらとバランスをどうにか保っている二つの組織の均衡は崩れる。

最後のひと押しをするのは自分だ。覚悟している。

「藤堂」

「ん?」

支度をするために部屋に入ろうとする背中に声をかける。

すらっと長身で、若々しく背筋はぴんとしている。

振り返れば束ねて上に持ち上げた髪の先がゆるりと揺れる。

「いや、なんでもないー。」

目の前の、これから来るはずの真実を言葉にはできなかった。

伝えたところで変わらない。

知らせたところで、何が変わるわけでもない。

存在に執着することの虚しさを思い知るのは十分だと

噛み締めた言葉を苦々しい表情で飲み込んだ。

彼には見られないようにー。

チラつく文字が、彼の表情に重なって、少しだけ滲んだ。 inserted by FC2 system