平助を間に抱きかかえたまま、新八と左之助は朝を迎えた。
涙は止まることを知らないかのように流れ続け、着物を濡らし続ける。

新八は辺りの様子を窺うために着物の袖で涙を拭い、立ち上がる。
平助と離れるのは嫌だったが、左之は平助を上に抱えたまま肩を震わせ泣き続けているため、一番動きやすいのは己だろうと判断してのことだった。
嵐のような夜を終え、明るくなった町を泣き続けたために腫れた目を凝らして新八は見渡す。
まるで昨晩のことが嘘だったかのような静けさの中に三人はいた。
しかし、嘘ではない。
嘘だったなら、どんなによかったのかと。
全部ウソだと平助が笑って起き上がってくれたらと。

「……あるわけ、ないけどネ」

己らしからぬ想像を抱いた新八は涙で汚れた顔を無理やり歪めて苦笑する。
その笑みはとても自嘲的だった。
死んだ者は生き返らない、わかりきったことだ。
今までだって何人もの仲間を失った。
この幕末の世で、仲間が死にゆくのなんて、至極当たり前のことではないか。
……それでも、仲間が死んでゆく度に、何度思ったかしれない。
生き返ってほしい、と

また一緒に笑いあえたならばと。

そしてまた思ってしまうのだ。
願ってしまうのだ。

いくつもの命を奪った己が
馬鹿馬鹿しくも願ってしまうのだ。
平助が生き返ればと。
また、三人で馬鹿やって笑いあいたいと。

「平助……こうしてっと、寝てるみたいだネ」
「……ッ……」

目を閉じたまま、動かない平助の
笑みを象った口元を撫でる。
穏やかな笑みに似合わない口端で固まってしまった血を擦って拭ってやる。
その死に顔は昔の平助のまんまで
隊を抜ける前の平助の、穏やかに笑う顔そのまんまで

まるで、寝ているだけなんじゃないかと


「起きろ、ヨ……、いつまでも、寝てんじゃ、ねーヨ」
「新八……」
「寝坊すると、土方さんに……怒られるヨ、へーすけっ……」

座り込んで、その肩を揺する。
あぁ、細くなったなぁ、なんて冷静に判断しながら
なぁ、なんでお前こんなに冷たいの、なんてわかりきった疑問抱きながら。
痛々しすぎる声音で、懇願するかのように新八は囁き続ける。

「起きてヨッ……」
「寝かせて、やれって……疲れ、たんだろ…ッ…」

堪えきれずまた溢れた涙を拭うことなく新八は平助の亡骸に抱き着く。
左之助も新八ごと二人を抱きしめ、涙声で冗談のように言う。
まだ、現実は見たくないから。
もう少しだけ、三人でいたいから。
二人は目を閉じる。

心臓のどっかが抉られたみてぇに痛ぇな、なんて言いながら
半身が?がれたみてぇに、空虚だななんて言いながら。




「……お迎えにあがりました」
「……永倉、原田」

どれくらいの時間を、そうしていたのか。
日も上まで登り、朝靄が消えていた。
二人の元へと数人の足音が近づく。
それは山崎と土方、そして数人の隊士の物だった。
二人は平助へと寄せていた体を起こし、虚ろな瞳でそちらを見る。
目があった瞬間、土方の瞳に映った後悔と懺悔と悲しみには、気づかない振りをして、二人は立ち上がった。

「平助、お迎えきたヨ」
「三人で屯所に戻ろうぜ」

大事に、大事に、動かない平助を左之助が抱き上げて、新八は重力に逆らわず垂れた右手を握った。
そうして歩み寄る三人の姿に、堪らず隊士が泣き始める。
しかし、それを咎めるものはなかった。
むしろ、山崎も土方も、己が涙を流すのを堪えるのに必死だった。

それほどまでに、その三人の姿は悲しく儚いものだった。

「藤堂の、葬儀は明日行う」
「……それまで、一緒にいてもいいかな?土方さん」
「……あぁ」


ありがとうございます、とらしくもなく礼を言う新八に薄く笑いかけ
土方は平助の右手を新八の手の上から握り、

「藤堂、ゆっくり、休め」

そう一言呟いて離した。
泣きそうに歪んだ顔は、それでも副長としての威厳を保ち続けた。






屯所に戻ってからも、何人もの隊士が平助の死を悔やんで涙を流した。
新撰組を裏切ったはずの平助は、それでも隊の仲間で、家族だった。
ずっと。
これからも、ずっと。

二人は三人で
二人でも三馬鹿だった。



「いつかまた、三人で、なんてネ」
「笑っちまうような願いだな」
「そうだネ。……それでも」


―またいつか何処かで。

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